福祉用具は「合う・合わない」が大きい。お試しレンタルで気づいた大切なこと
1|福祉用具は“ただ置けばいい”ものではなかった
退院後の在宅介護では、「安全に生活できる環境づくり」が何より大切になります。
そのため、私たち家族も福祉用具を積極的に取り入れてきましたが、実際に使ってみて気づいたのは
福祉用具には“合う・合わない”が大きいこと。
そして、その「合う・合わない」は
本人の体調・認知機能・住環境・生活リズムによって、
日ごとに変わるということでした。
今回の記事では、我が家で実際に起きた変化とともに、
“お試しレンタルの重要性”について書いていきます。
2|寝返りが難しくなってきた頃に起きた変化
父は退院後、徐々に 寝返りが難しくなり、ベッド上での姿勢保持が不安定になってきました。
そのため介助する際にも、
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立ち上がりやすい位置
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体の向き
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ベッドからの転落リスク
を考えて、福祉用具の配置を見直す必要が出てきました。
そこで、介護ベッドの手すり(サイドレール)の位置を
足元側に移設し、横になる方向を逆にすることにしました。
これは決して珍しい対応ではなく、
「身体状況に合わせてベッドの使い方を調整する」のは在宅介護ではよくあることです。
しかし――ここで想定外の変化が起きます。
3|“手すりの位置”を変えただけで世界が変わってしまった
最初の数日は大きな変化はありませんでした。
そのまま通常通り、デイサービスにも通えていました。
しかし数日経ってから、父の様子が徐々に変わり始めました。
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夜眠れない
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会話がかみ合わない
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何度もベッドから起きようとする
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「ここはどこ?」という不安な表情
まさに せん妄(せんもう) の状態に近い症状が続きました。
私たち家族は、「何が変わったんだろう?」と必死に考えたのですが、
その答えは意外なところにありました。
4|原因は“ベッドから見える景色”だった
父は、体の向きを反対にしたことで
寝たまま見える天井の向き・壁の位置・部屋の表情が変わってしまったのです。
高齢者、とくに認知機能が弱くなっている方にとって
「見慣れた景色」は安全の目印
であり、
それが変わるだけで“大きな混乱”につながることがあります。
さらに父の場合、
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入院中の感覚が戻る
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「病院にいる」と勘違いする
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家の中で迷子になるような不安
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夜が長く感じる
といった状態が重なり、せん妄が強くなってしまいました。
5|福祉用具は“機能”ではなく“心理”にも影響する
今回のことで深く感じたのは、
福祉用具は身体を支える道具であると同時に、心の安定を支える環境そのものということです。
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手すりの位置
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ベッドの向き
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枕の方向
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見える風景
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触れる位置
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部屋の明るさ
これらはすべて、「本人の世界」を形づくっています。
少し変えただけで不安が大きくなることもあれば、
逆に安心につながることもある。
福祉用具は「合う・合わない」が本当に大きいと痛感しました。
6|歩ける日と歩けない日がある“波のある介護”
さらに父の場合、
日によって歩ける日、車椅子の日があるという特徴もありました。
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調子が良い日は、自力でゆっくり歩いてデイサービスの車に乗れる
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体調が不安定な日は、車椅子で送り迎えが必要
この「できたり、できなかったり」が認知症の特徴であり、
また、介護者の負担にもつながりやすい部分です。
だからこそ、
“その日の状態に合わせられる環境”をつくることが大切
だと感じています。
7|“お試しレンタル”は本当に必要
今回のお試しでわかったこと👇
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使ってみて初めてわかることが多い
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数日経ってから影響が出ることもある
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本人の心理状態が変わることもある
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家族の介助の負担が変わる
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家の間取りや動線との相性も大きい
→ だからこそ、お試し期間は絶対に必要。
歩行器のお試しレンタルが合わずに返却したように、
「使わない」という選択ができるのもレンタルの強みです。
福祉用具は、
“合うものだけ”を選んでいけばいいのです。
8|まとめ:本人が見ている世界を変えすぎないこと
今回の経験を通して感じたのは、
福祉用具を替えるときは、“本人が見ている景色”まで想像することが大切
ということでした。
介護の現場では、どうしても「安全」「機能」に目が向きがちですが、
認知症のある方にとっては「見慣れた世界」が大事な支えになります。
これからも、父の気持ちと身体の両方に寄り添いながら、
少しずつ環境を整えていきたいと思います。
▶【前回記事】退院後の在宅介護で始めた「転倒予防」3つの工夫
(リンク)
次回は、ベッド周り以外の“環境の変化”がどのように影響したのかを記録していきます。

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